いまでは、オンライン音楽販売市場の70%を占めるに至ったiTunes Store。
iTunesでアクセスすると、大きくオススメのアーティストが最上部に3つ、中間に6つ、そのほか、小さい画像が
並んでいるが、ここに何を掲載するかを誰が決めているのか、気になったことはないだろうか?
Wall Street Journalの記事"Music's New Gatekeeper"では、AppleのiTunes Storeの裏側を伝えている。
(iTunesへの掲載は、レコード会社にとっては死活問題)
クパティーノのiTunes「編集部」
それによると、まず、iTunes Storeの「編集部」ともいうべきセクションは、Appleのクパティーノ本社内にある、という。通常のプログラマーたちがいるところとほぼ同じだが、よく見ると音楽関係のポスターなどが張ってあるらしい。
iTunesの「編集部」は、音楽バックグランドを持つ人が当然ながら多い。
- 音楽編成/レーベル渉外担当ディレクターのAlex Luke氏は、自身は長年DJとして活躍してきており、いまでもロサンジェルスのFM局のDJをときどきしている。
- 独立系音楽会社の渉外担当のBruno Ybarra氏は、ハウスミュージックのレーベルを共同創業している。
- ロンドンのiTunesの音楽編集長を務めるDenzyl Feigelson氏は、歌手ポール・サイモンの"Graceland" ツアーのマネージャーをしていた。
こうしたスタッフで構成されるiTunes編集部では、毎週火曜日に更新されるiTunes Storeのラインナップを日々検討している。
オススメ掲載とエクストラトラックの関係
リアルの店舗やRealNetworks' Rhapsodyの場合、店頭の目立つ場所にCDを置いたりすることに対して、レコード会社がお金を払って行うことが通例だが、iTunes Storeは、そうしたことは行っていない。
アーティストのオススメ掲載については、Appleは、あくまでバイアスのかかっていないオススメをしたいという。
AppleのiTunes担当副社長のEddy Cue氏は、今日の小売店では失われてしまった、「目利きの店員がいる独立系のレコード屋の精神」を反映させたいのだという。
その代わり、iTunes Storeは、新曲への独占販売や、ディスカウント価格、アーティストへのインタビューなどエキストラ素材などを求めるという。
こうした要求が一部のアーティストにとっては、行き過ぎに映る場合もあり、「アーティストいじめ」だとイギリス人歌手Lily Allenは、WSJの記事で発言している。
オススメ掲載で売り上げ5倍
ただ、多くのレコード会社幹部にとっては、iTunesの威力を認めざるを得ない。
というのも、iTunes Storeにフィーチャーされる週は、その後のフィーチャーされない週の、5倍は売れるというのだ。
Super BowlのハーフタイムショーにPrinceが出演するタイミングにあわせて、Princeの旧作をiTunesでフィーチャーしようと思ったRhino Entertainment社(Warner Music Group)は、iTunesと交渉した結果、"Purple Rain"を含む4つのアルバムを通常の価格より2ドル安い$7.99で販売する条件で、iTunesでの表紙でのフィーチャーを獲得した。
結果、"Purple Rain"は通常の5倍、ベスト盤は2倍売れたという。
オススメ掲載のためのレーベルの「あの手この手」
あるレコード会社に至っては、クパティーノのiTunes編集部に、新人アーティストを連れていき、スタッフの前で演奏させた、という。iTunesスタッフのお眼鏡にかなったこのアーティストは、デビューアルバム発売の前に、iTunes独占の楽曲を数曲販売することになった。
iTunesの目立つところに載るか載らないかは、レコード会社にとってはこのように死活問題だが、最近、さらなる強力な「ライバル」が登場した。
レコードレーベル幹部によると、Appleがテレビ番組や映画を販売するようになって以来、メジャーな新譜のリリースの際に、iTunesのスペースを確保するには、3か月から半年前から交渉しなければならなくなっているという。
Appleのビジネスモデル
シェア70%を持つ新しい音楽におけるゲートキーパーとなったAppleだが、1曲99セントのうち、
iTunesは、通常、メジャーレーベルには、1曲あたり、72セントを支払うという(独立系レーベルに対しては約62セント)。Appleに残るのは、1曲あたり実に27セント。この中には、クレジットカード手数料なども含まれている。
やはり、iPodというドル箱がなければ成立しないビジネスモデルなのかもしれない。
Comments