B3 Annexでは、昨年後半から、Radioheadやマドンナ、プリンスなど大物アーティストによる"新しい音楽ビジネスへの動向"について積極的に伝えてきた。音楽は常に「先兵」であり、音楽で起こっていることは、やがて映像などのほかのコンテンツにも起きうることだと考えるからだ。
さて、もう一度、"音楽ビジネス"について考えるうえで、Wired誌のデビッド・バーン(Talking Heads)の音楽ビジネス考察("David Byrne's Survival Strategies for Emerging Artists and Megastars")が面白い。ここでは、B3 Annex抄訳で見ていきたい。
バーン氏は、まず、今日音楽ビジネスといわれるものが、音楽を制作することではなく、CDをプラスチックケースに入れて販売することを意味するようになっていて、それもまもなく終わる、としている。
ただし、それは、音楽にとって、そして、ミュージシャンにとって悪いことではない。これまで以上にリスナーにリーチできる方法がある現在は、むしろミュージシャンにとって多くのチャンスがあるというのがバーン氏の認識だ。
Radiohead、そしてマドンナの動きは、従来の音楽ビジネスが終わりに近いことを示している。
バーン氏曰く、今後は音楽に唯一の方法論があるのではなく、レディオヘッドとMadonnaの例は、"6つある音楽ビジネス"のあり方のうちの2つに過ぎない、という。
さて、その6つに触れる前に、まず、レコード会社は、何を行う(行っていた)のか。
バーン氏は、以下のように「レコード会社」の活動をまとめている。
レコード会社の活動
- レコーディングセッションの資金提供
- 製品(CDなど)の製造
- 製品の流通
- 製品の売り出し
- アーティストの諸経費(ツアー、ビデオ、ヘアメイク)の貸し出しや前払い
- アーティストのキャリアやレコーディングについてのアドバイスや指南
- 経理処理
技術革新により、このうち、レコーディングや製造、流通など、劇的にコストが下がっているものがある。
しかし、レコード会社は、そうしたコストダウンとは関係なく、従来通りの価格を「製品」に上乗せしている。
CDの売上配分
現在のアルバムCD(小売価格$15.99)がどのような売上げ配分になっているのか、確認しておきたい。
ミュージシャン組合 1% $0.16
パッケージ・製造 5% $0.80
出版印税 5% $0.80
小売利益分 5% $0.80
流通コスト 6% $0.96
アーティストロイヤリティ 10% $1.60
レコード会社利益分 11% $1.76
マーケティング・プロモーション費 15% $2.40
レコード会社経費 18% $2.88
小売経費 24% $3.84
計 100% $15.99
(データはWired誌による)
これを見ると、レコード会社と小売の取り分で60%近くいっていることがわかる。
これが、ダウンロード販売になるとどうか。中抜きが行われるが、小売の位置にiTunesが入れ替わっただけ、
というのが、バーン氏の見方だ。
アーティスト 14% $1.40
iTunes 30% $3.00
レコード会社 56% $5.59
計 100% $9.99
こうした現状を踏まえた上で、バーン氏は、音楽ビジネスには少なくとも6つのビジネスモデルがあるのではないかとし、6つについてそれぞれ簡単に解説している。
6つの音楽ビジネスモデル
1.Euity Deal
アーティストの活動のすべてが管理され、レコードはもちろん、コンサート、ビデオ、Tシャツ、バーベキューソースまでアーティストの名前で販売され、アーティスト名はブランドになる。
こうした契約をしているアーティストとして、Pussycat Dolls、Korn、Robbie Williamsを挙げている。
2. Standard Deal
いわゆる「標準的な取引」。レコード会社が、録音から製造、流通、プロモーションを一手に引き受け、アーティストはロイヤリティのパーセンテージを受け取るだけ。録音物の著作権についてはレコード会社が永久に保持する。
3. License Deal
「標準的な取引」に似ているが、この場合、マスターテープの著作権と保有権はアーティストが保持し、一定の期間(通常は7年間)レコード会社にライセンスされる。期間終了後は、テレビ番組やコマーシャルなどにライセンスする権利はアーティストに戻る。ただし、レコード会社がマスターを持たないために、マーケティングにあまりお金をかけない可能性は残る。
4. Profit Sharing
利益共有型。バーン氏は、2003年のアルバム"Lead Us Not Into Temptation"でこうした形のビジネスを行ったという。レコーディング費用は、映画のサントラ費用で賄われ、マスターはバーン氏が保持。レコード会社がマーケティングと製造を担当。アーティストのバーン氏は、大手レコード会社の場合と比べて、枚数は売れなかったかもしれないが、一枚あたりのアーティスト取分は通常よりも多かったという。
5. M&D Deal
製造・流通型。
アーティスト側が、製造・流通以外すべてを担当する。アーティストは完全にクリエイティブのコントロールができるがバクチでもある。Aimee Mannはこの方法でうまくやっている。マスターを保持し、ライセンスも直接行うことで、成功すれば何度も何度も収入がある。
6. Self-Distribution
アーティスト自身による流通型。
アーティストがプロデュースし、作曲・作詞され、演奏され、マーケティングされる。ギグやウェブでCDは販売され、Myspaceでプロモーションされる。バンドが、ダウンロード販売のためのサーバを購入またはリースする。まさに、RadioheadがIn Rainbowで行ったのがこのDIY型モデルである。
6つのモデルのどれもが独立したものではなく、それぞれが融合する場合もあるだろう。期間によって、別のモデルを取る場合もある、という。
バーン氏は、最後に、若いアーティストに対して、できる限りの権利を保持するように勧め、こうしたロイヤリティがソングライターの「年金」になるとし、いまはミュージシャンをやるのにすばらしい時代である、と締めくくっている。
"I would personally advise artists to hold on to their publishing rights (well, as much of them as they can). Publishing royalties are how you get paid if someone covers, samples, or licenses your song for a movie or commercial.
This, for a songwriter, is your pension plan."(David Byrne's Survival Strategies for Emerging Artists and Megastars - Wired Magazine)
音楽ビジネスが、レコード会社を中心に語られる中で、この記事はミュージシャンからの貴重な現状分析であり、戦略論になっている。
David Byrne's Survival Strategies for Emerging Artists and Megastars - wired.com
B3 Annex: Radiohead、新作アルバムはバンドサイトのみで販売 価格はユーザー次第!(2007年10月3日)
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