作詞家・松本隆さんの作詞活動45周年を記念するライブ「風街レジェンド2015」に、幸運にも行ってきた。(8/22の回)
このライブ、すごいのは、名だたるアーティストや歌手たちが、ときには一曲だけ歌って、引き上げていくという点。松本隆が、45年の間に作詞した曲たちは、キラ星のごとく。それこそ、誰もが知っている曲のオンパレード。
ライブの冒頭は、細野晴臣、鈴木茂、松本隆の3人になってしまった「はっぴいえんど」の「夏なんです」から。松本がセンターに陣取ったドラムスを叩いていく。細野の独特の声が、松本隆の詞の世界へと一気に連れて行ってくれる。続いて、「花いちもんめ」、佐野元春を呼び込んで、「はいからはくち」。ここで、「はっぴいえんど」は一旦終わり。
今度は、太田裕美(木綿のハンカチーフ)、原田真二(てぃーんずぶるーす、タイム・トラベル)、大橋純子(シンプル・ラブ、ペーパームーン)、石川ひとみ(三枚の写真)、中川翔子(東京ららばい)、美勇士(セクシャルバイオレットNO.1)、イモ欽トリオ(ハイスクールララバイ)、山下久美子(赤道小町ドキッ)、早見優(誘惑光線・クラッ!)と息つく間も無く、ヒット曲が次々と続き、安田成美の「風の谷のナウシカ」(!)。聞いているこちらもハラハラしながら(微笑)、でも、松本+細野ワールドが展開。
このあとは、松本がシューベルトの曲に日本語詞をつけた2曲のあとは、亡き大瀧詠一の「A LONG VACATION」をイメージした写真が数枚投射され、ジャケット写真に切り替わり、伊藤銀次、杉真理による「君は天然色」。佐野元春を呼び込んで「A面で恋をして」。今度は、稲垣潤一(バチェラー・ガール、恋するカレン)。南佳孝で「スローなブギにしてくれ」、”天才ギタリスト”鈴木茂を呼び込んで「ソバカスのある少女」。南が引っ込んで、鈴木が「砂の女」。小坂忠(しらけてしまうせ、流星都市)。
吉田美奈子は、「Woman “Wの悲劇”より」と「ガラスの林檎」。この2曲は、それぞれ、薬師丸ひろ子、松田聖子がオリジナルだが、吉田は、かなりアレンジしていて、独特の世界に。
今回のために結成された井上鑑率いる「風街ばんど」が「カナリア諸島にて」をインストで演奏しながらのバンド紹介。
中川翔子(綺麗ア・ラ・モード)、斉藤由貴の「卒業」。斎藤の卒業は、桜の映像の下で歌っていて、特に印象深かった。EPOは竹内まりあの「September」をカバー。
太田裕美が、松本+大瀧の「さらばシベリア鉄道」。水谷豊が、「やさしさ紙芝居」。寺尾聡が、「ルビーの指環」。途中、歌詞がトンで笑ってごまかすが、終始なごやかに、かつ渋くカッコよく。
ここでカーテンが降り、紗幕に、きょうの楽曲名が一曲づつ映し出される。
カーテンが開いて、アンコールとして、再び、3人の「はっぴいえんど」が登場。「驟雨の街」。そして、きょうのアーティスト、歌手たち全員で、「風をあつめて」で終了。
最後にユーミンが花束をもって登場。自分は、松本隆と「戦友である」としたうえで、松本がもっとも(創作における)「地獄」を見ていると発言しつつも、「松本隆は松本隆のことが一番好き」と言ってのけて、お開きとなった。
全体を通してみると、特筆すべきは、やはり、大瀧詠一の不在だろう。会の半分は、大瀧へのトリビュートになっていた。あるいは、大瀧の死が、松本に、こういう会を思考させたのかもしれない。
作詞家という役割のせいものあるが、松本隆は、70年代以降の歌謡曲に、地下水脈のように脈々と続いており、ときどき、関係ないと思っていたものが、つながるということがある。それでいうと、細野晴臣という地下水脈もかなり脈々とつながっている。はっぴいえんど、恐るべし。
しかし、こうした地下水脈は、今後も続き得るのかと考えてしまう。
私たちは、「時代」という大きなひとつの船にたまたま乗り合わせていて、それこそ、10代のころに、毎週のようにテレビの歌謡番組で、松本が紡いだ世界を、ある意味、当たり前のようにして育ったが、実は、これは、このころの時代だけに特有なことなのではないか。とても儚い世界を、私たちは、共有してきたのではないかと思うのだ。
もしかしら、あのころのような、社会の中における「音楽」の立ち位置ではなくなっているかもしれない。
その意味でも、素晴らしい時間をありがとう、と言いたい。
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