ベストセラー"Longtail"の著者、Chris Anderson氏の次回作が"Free"というタイトルになることはB3 Annexでも昨年伝えているが、Wired誌の3月号では、"Free! Why $0.00 Is the Future of Business"と題された、
Chris Anderson氏による長文記事が掲載されている。書籍として発売される前に、Wired誌に先行掲載された形になっている。
記事は、髭剃りの本体(無料)と替刃(有料)のビジネスモデルを生み出したKing Gillette氏から始まっている。
発明家だったKing Gillette氏は、髭剃りシステムを思いつくも、1903年当初は、本体51個、替刃168枚しか売れなかったという。
その後の20年をかけて、Gillette氏はあらゆるマーケティング手法を活用し、自身の顔をパッケージに印刷したり、軍隊に格安で売り出したり、銀行口座開設時の記念品として採用してもらうなどし、究極的には、本体を無料で配布し、替刃を売るというビジネスモデルを確立したのだという。
Chris Anderson氏は、現在ネットで起こっているのは、髭剃りに例えれば、鉄の価格が急落して、本体も替刃も無料で配れるレベルになっている状態で、それ以外のもの(シェービングクリーム?)で儲けるようなモデルへの転換である、という。
インターネットにおける10年以上にわたるさまざまなビジネスモデルの実験の結果、ネットにおける無料vs有料の議論は終わろうとしている。(NY Timesの全面無料化、WSJも有料を維持しつつ、無料部分が大きく拡大、Googleに至っては、すべてが無料)
これらは、ムーアの法則によって、マイクロチップの性能が18か月で倍増し(同性能なら半額)になるように、帯域もストレージの価格も下落することが
原因となっているとする。
記事の中盤で、Chris Anderson氏は、Freeなビジネスモデルを6つのタイプに分類して紹介している。
1."Freemium"(Freemiumモデル)
無料なもの: ウェブソフトウエアやサービス。いくつかのコンテンツ。
誰にとって無料か: ベーシック版の利用者。
NYに住むVCのFred Wilson氏が命名したモデル。(B3 Annexでも昨年6月に紹介)いわゆる99%の人にとっては無料で、一部1%の人がプロ版などの有料版を利用することで成立している。(無料版のFlickrと年間25ドルのFlickr Proなど)
2.Advertising(広告モデル)
無料なもの:コンテンツ、サービス、ソフトウェア、その他。
誰にとって無料か:すべての人々。
無料によって多くの人々が利用し、そこへのアプローチのために広告主が広告料を支払うモデル。
3.Cross-subsidies(相互補助モデル)
無料なもの:ほかのものへの出費を厭わないすべての製品。
誰にとって無料か:いずれにせよ最終的には支払う意思のある人
Wal-MartがDVDを15ドルで売る際、DVD単体では損失が出ているが、収益の高い洗濯機で元を取っている。DVDはこの場合、店に客を呼び込むツールとなっている。
4.Zero marginal cost(限界費用ゼロモデル)
無料なもの:極めて誰にとっても低いコストで配給できるもの。
誰にとって無料か:すべての人々。
オンライン音楽が好例。オンライン音楽配信の本当のコストはほぼゼロになっている。
このために、DRMなどの防止策はほぼ失敗している。音楽を無料で配布し、マーケティングやマーチャンダイズに利用するアーティストもいるが、一方で、純粋に音楽を無料で配る人々もいる。
5.Labor exchange(労働交換モデル)
無料なもの:ウェブサイトやサービス。
誰にとって無料か:すべてのユーザー。サイトやサービスの利用によってなんらかの価値が創造されるため。
digg.comでの投票や、Googleの音声検索サービスGoogle 411などで、利用者は、サービスの利用過程で、サービスの向上やほかで有用な情報を生み出している。(Google 411は利用者が利用することで音声認識技術の向上に利用している)
6.Gift economy(贈与経済モデル)
無料なもの:オープンソースソフトウェアやUGCなど、何でも。
誰にとって無料か:すべての人々。
金銭だけが動機でないのは、Wikipediaを見るまでもない。個人の利他主義的な行動は、いまやグローバルなインパクトを持つようになった。つまり、配信コストゼロによって、共有は産業にまでなった。
正直、6つの無料ビジネスモデルについては、まだ荒削りな印象を持ったが、書籍版までには、ブラッシュアップされるだろうと期待。Chris Anderson氏の新作は、2009年に発売される。
なお、今回の特集のテーマに合わせ、Wired誌3月号を先着1万人に無料で配布している。(ただし、米国オンリー)
Free! Why $0.00 Is the Future of Business - Wired.com
The Long Tail: Wired cover story on FREE now live
B3 Annex: "Longtail"著者の次回作は、"Free"(2007年5月26日)
B3 Annex: Free + Premium = Freemiumというビジネスモデル(2007年6月14日)